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釣り場 : 熊本県

Writer : 編集部

Residence : 大分市

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Pride :

っていうか、今こそナマズでしょう?

2019年 7月 14日 20時頃

今年も土用丑の日がやってくる。そろそろウナギ稚魚の漁獲量が回復してくれないと、ウナギの話題を取り上げられないが、今年も不漁続きである。そんなわけで、ウナギ釣りの話題自粛は続いており、今年もアイツに頼るしかない。そう、ナマズだ。ウナギを釣っていると高確率で掛かってくることが知られている。シーバスを河口で狙っていると、まあまあの確率で掛かってくる。中流域ならシーバスよりもこっちの方が釣れる。外道扱いされることも多いが、最近はこれを専門にルアーで狙う釣りも盛んになってきた。夏の夕暮れ、トップウォータープラグで狙える身近なターゲットとして人気上昇中。その食性はエビ、カニ、小魚や流下昆虫などと、この点ウナギと似ており、今となっては料理して食べる人も少ないが、ナマズの調理法として蒲焼が知られている。ウナギ不在の土用丑、天下を取るなら今がチャンスではなかろうか。そう! 土用と言えば、これから先はナマズであろう。

7月14日、今年も熊本市内を流れる白川の堰にやって来た。堰の下流側には日暮れ前からシーバス狙いのルアーマンが集まっているが、私はわき目も振らず、堰の上流側へ向かう。シーバス狙いの人に「こっちで釣れますか?」と問われ、自信満々に「釣れます!」と答えた。ナマズだけど。タックルはバス用から出来るだけレトロチックな物を選んで持ってきた。ルアーは古いアメリカ製のイメージで作った自作のクランクベイトとミノー。釣文学の大家、故開高健氏が大アマゾンで大ナマズと格闘した時の、あのイメージを頂戴しようという目論見だ。

釣り場の堰は田圃に水を引くためのもので、堰の上流側には用水路の取水口がある。産卵のため水路に乗っ込むナマズの通り道になっていて、必ずナマズは来るはずだ。慌てることはない。悠然とルアーを引いていれば、すぐにナマズは食付いて来る。あまり潜らないように作ったクランクベイトはお尻を振り振り、水路の水流をゆっくりと遡り、いつも通りならハンドルを5巻きもすればリップが泥底を捉えるはずなのだが? 今日は妙に水量が多く、底を取れそうにない。そして流れも速い。夕霞の彼方に赤い月が昇る、そろそろ釣れてくれないとまずい。自作ルアーをとっかえひっかえ、通すラインを変えたりして探るも、一向にあの硬い口でルアーをカツカツと噛むようなアタリが来る気配は無い。

やがて、浅黒く端正な顔立ちの外国人風の釣り人がやってきて、ミミズで何やら底物を狙い始める。そういえば、開高氏はベトナムのナマズに関しても著書に書かれていた。果てしなく続く水田に沈む夕日と釣り人達。あとは魚さえ揃えば画的に完璧なのだが、魚だけが来ない。先程話しかけてきたシーバスマンが通り掛かる。セイゴ、フッコサイズの魚が結構釣れたらしい。ナマズの方は不振だと答えたら、堰の下でも釣れそうだと教えてくれた。ちょっと移動してみる。

ちょっと前の渇水で絶え絶えだった堰の水流は、今や劇的に回復していた。その影響か、スズキの方は好釣であるらしいが、肝心のナマズは一挙に川を遡上してしまったのかもしれない。試しに堰の下に轟々と渦巻く白泡の中へ1投。ゆらゆらと泳ぐミノーを何者かがひったくり、バスロッドが胴からしなる。「来たか!」…、シーバスである。ちょっと嬉しいが今回は君じゃあない。

やがて赤い月は高く昇り、とうとう周囲を青い闇が包囲した。これは本格的にまずい。夕まずめに無反応なら、オデコの気配濃厚である。釣りのネタ取材にこんなジンクスがある「簡単に釣れそうなものほど苦労する」。どうやら、今回もそれらしい。真冬にナマズを釣った事がある水路に慌てて移動したが、ヒシ藻の間から激しく水飛沫を上げて雷魚が挨拶してきた以外は、浮遊する大量のごみを釣り上げたのみ。「こいつは本格的にまずい、締め切りは、明日なのだ!」。

…もうこうなったら諦めるしかない。土用丑のナマズは無かったことにして、シーバスのネタに切り替えよう。バスタックルを車に仕舞い、シーバスタックルを取り出す。頭の中にあった構想は全て捨て、今から即興で何か捻り出さないといけない。

堰から流れ落ちる水流に乗せ、ミノーを漂わせる。時折正体不明のアタリが竿を叩き、びっくりするが、どうも魚の感じがしない。コウモリが糸に触って悪戯するやつだろうか? それともほかの得体の知れない何か? ああ、もういっそ、適当に怪談でもでっち上げてお茶を濁すか…。コウモリに悪戯されない様下げた竿先にカツカツという細かいアタリ。竿を立てると、長い魚が掛かった時特有のギューンという強い引き込みが来た。「え? まさか?来たの?」。間違いない。赤い月明りを受け、身をくねらすナマズの魚影が見えた。今までこんなにナマズを慎重に取り込んだことは無い。楽に抜き上げられるサイズだが、恐る恐る網に導き入れ、水面から引き上げた。

早速、祝杯を上げねばなるまい。現場でナマズを解体し、行き付けの店へ電話を入れる。「どどど! 土用!丑のナマズだから! 今から行きます!」。食処花樹の大将は、私のしどろもどろの説明を聞いてすぐに蒲焼の支度をはじめ、グラスに冷酒を注いでくれた。山椒や味噌の隠し味が効いた特性の付けタレで焼き上がったナマズを口に運び、地酒蛍丸で流し込めば、一日の疲労も静かに溶けてゆく。こうして苦労して獲って来ると、改めてナマズがそこに居る事の有難さに気付かされる。

ウナギも、強健でどこにでもいる魚の筆頭であったが、その有難さに気付かぬまま利用を続けた結果が、今日の不漁に繋がったのではないだろうか。本当に大切な物が何なのかは、失ってみないと分からないという。ナマズもきっとそういうものの一つだろうと思いながら、最後の一杯を飲み干した。

HN/妖怪熊河童・記

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